2007年10月18日(木曜日)


場所を移動する場合の目標地点を示す助詞として、「へ」がある。「学校へ行く」の「へ」だ。しかし、この頃ではこれを「学校に行く」と言う人が多数になった。僕が観察したところでは、ほとんどの人は、「へ」ではなく「に」を使っているようだ。「外へ出る」か「外に出る」か、「ポストへ入れる」か「ポストに入れる」か、ちょっと考えていただきたい。意識すると、どちらでも良いと思えるほどだし、べつに「へ」を使っているよ、と思うかもしれない。でも、実際の会話では、思いのほか使われていないのだ。 どうしてだろう。1つ思いつくのは、「へ」という文字表記であるのではないか、ということ。発音は「え」なのに、文字は「へ」と書く。これは、子供たちには非常にわかりにくい約束事だ。もともとは、「へ」に近い発音をしていたのに、その名残はもうほとんどなくなった。文字だけを残したのは、「へ」と書いた方が平仮名ばかりの文が読みやすい、という利点があったからだろう。同様のものに「を」がある。これは今でも、「お」の発音とは違い、「wo」と発音する人が多いと思う。 僕は、最初に小説を書き上げたあと、もう一度読んで手直しをする。そのとき、「に」を「へ」に直すことが多い。1作のうち、10 箇所以上直す。つまり、ついつい「に」を使ってしまうけれど、「へ」の方が、日本語として美しいな、とまだ思っているためだ。 ただ、会話では、「へ」はあまり使えない。さらに、会話のほとんどは、既に助詞が省略されている。「東京へ行ってきた」ではなく、「東京行ってきた」と言う人が増えた。助詞をきちんと入れることが、「丁寧語」に聞こえる昨今である。

via: MORI LOG ACADEMY: へとに