2006年07月17日(月曜日)


ある大学の話だが、2年まえに地下鉄の駅ができた。この駅と、工学部の新館を地下で繋げるようにデザインがされていたが、大雨が降ったとき、その新館の出入口から、駅構内へ水が流れ込んだ場合には、大学は市へ損害賠償をしなければならない。現に、まえの集中豪雨のときに、JRと地下鉄の連絡通路から水が入って、JRが市へ賠償金を1億円近く払ったらしい。 もちろん、最新の技術で、雨に対する対策は設計に盛り込まれていた。工学部の専門家がシミュレーションをしたところ、1000 年に1度の大雨が降らないかぎり大丈夫だ、そんな大雨が降ったら、山の麓に当たる隣の駅近辺は大洪水になっているだろう、との予測もあった。この問題は、大学内で投票になって、結局、その入口を作らないことに変更された。だから、大学の新しい入口としてデザインされていた新館の地下のピロティは馬鹿みたいなデッド・スペースになってしまったのである。技術を信じられない人が、大学にも多い、ということがわかった。 よく「予想を上回る自然の猛威」というけれど、それは、設計で想定した値以上のもの、というだけのことだ。どこまで設計に見込むのか、という問題であって、想定以上のものが来れば、当然被害が出る。ただ、1000 年に1度の確率のものが、1年後に来るかもしれない、ということも事実。気象については過去せいぜい 100 年から 200 年くらいのデータを基にしているのだろう。また、温暖化に代表されるように、地球の気候は将来にわたってずっと同じである保証はない。しかしそれでも、可能なかぎりのデータで予測をし、対策を立てておく、というのが技術であり、人間が信じることができるものはほかにない。「安全」とは、元来そうやって築くものである。

via: MORI LOG ACADEMY: 大雨の思い出