2006年01月21日(土曜日)


読者からの感想で、「わからなかった」というものがある。それには、いつもこう応えている。「小説は問題集や参考書ではないのです」と。まあ、そういうことだ。 それから、エッセィやその他のノンフィクションについては、メッセージを他人に伝えることが目的で本を書いている、と誤解されることが多い。 「これを人々に伝えたかった」「社会に対してこれを言いたかった」というような言葉が頻繁に使われるために、作者はなんらかのメッセージを作品に込めるものだ、と思い込んでいる人が多いのではないか。 もし、明確なメッセージを、どこか特定のところに伝えたいのなら、なにも本に書いて出版する必要などない。直接伝える方が効率が良い。自分の意見があって、それを沢山の人に認めてもらいたい、と考えたならば、有料の本を売るよりも、ただで配った方が効果が大きい。 そうではない。本には値段がついていて、それを大衆は買っているのである。だとしたら、売った人ではなく、買った人にとって価値があるものがそこに含まれていなければならない。それを提供する、ということが作者の仕事であり、商品の主目的だ。 自分の意見を込めることはあるけれど、それが本を出版する主目的ではけっしてないし、その意見が伝わってほしいと積極的に考えているわけではない。 したがって、買ってはみたけれど、自分にとって価値が見つからなかった、という人は不運であり、それはいわゆる「合わなかった」ということになる。あらかじめ、自分に合いそうなものを選んでいるのだろうけれど、そういうミスはもちろんあるだろう。 できるだけ読者に価値を生じやすいものを作ることが仕事ではあるが、最終的に合うか合わないかは、読者側の問題となる。 靴だって、しばらく履いてみないと履き心地はわからない。使ってみないとわからないものは多い。最初は駄目でも、あとで価値が生じるものだってある。そういうことだろうとは思う。 もちろん、この MORI LOG ACADEMY も同じだ。主義主張をメインに打ち出そうなんて、全然考えていない。ここを読んで自分にとって新しいものを見つけられる人は、読んで得をすることになるし、そうでない人は読まなくなるだろう。誰もが、自分に価値があるものを自分の力で得ることができる。

via: MORI LOG ACADEMY: 主義主張が主目的ではない